漢方医が嫌う病名処方・症状処方 漢方医の処方は・・・
■漢方医は病名処方・症状処方を嫌う
病名処方=病名で漢方薬を決めて処方すること
症状処方=症状で漢方薬を決めて処方すること
で、漢方医はこれを嫌います。
西洋薬の場合は、その方法で問題ないことが多くても漢方薬の場合は違い、
この病名処方・症状処方を漢方医はとても嫌うのです。
例えば、患者さんが
「風邪の漢方薬が欲しい」と希望して葛根湯が処方されたら、
これは病名処方(風邪=葛根湯として処方)になります。
そうでなくても、
簡単な問診をして胸に聴診器を当てて葛根湯を処方されたら、この場合も病名処方と言えます。
漢方医は
詳しい問診と漢方診察をして処方を決める
のです。
漢方薬は、1剤で多くの効能や特徴があることが多く、単に病名や症状で処方を決めると効果が出ないだけでなく、逆に症状が悪化する場合もあるのです。
例に挙げた葛根湯には温める作用、発汗作用があり、また肩こり頭痛を改善させる効果があります。
そのため寒気がして汗をかいていない人で、かつ肩こり頭痛がある風邪の人には良い適応になります。また葛根湯には麻黄という、胃に負担をかけ心臓にも負担をかけ、さらに睡眠を妨げる成分が含まれています。また、葛根湯は(例外もありますが)風邪の初期でないと効果が出にくいです。
葛根湯の処方だけでも、このような色々なことを医師が問診で確認する必要があるのです。
つまり
単純に風邪=葛根湯として処方してしまうと、胃が弱い人、心臓の病気持ちの人、不眠の人、汗かきの人にはマイナスの効果(=副作用)が出てしまうこともある
のです。
問診以外に漢方診察として、舌や脈やお腹の状態の診察などもした上で処方を決めます(葛根湯の場合は脈の状態が非常に重要になります)。
病名処方や症状処方は、
漢方に詳しい医師ほどやらない処方かつ嫌う処方
で、漢方医は皆同意見のはずです。
■漢方外来よりも一般内科外来受診した方が良い人
漢方医の外来ではなく、
一般内科外来で漢方処方可能な医療機関を受診した方が良い人
もいます。
それは、ネットに書いてあったからという理由で
病名処方、症状処方を強く希望する人です。
なぜならば、
漢方に詳しい医師ほど病名処方、症状処方をしないから
です。
例を挙げると、
①漢方薬○○が血圧を下げるらしいのでその漢方薬を処方してほしい(※血糖、コレステロール、中性脂肪、尿酸等、数値を下げるものは全て同様です)。
②ダイエットに漢方薬△△が良いらしいのでその漢方薬を処方してほしい(※ダイエット関連はほとんどが誇大広告です)。
前述したように、病名や症状から欲しい漢方薬を決めることを漢方医は好みません。
その理由は
「漢方医のプライドが傷つけられるから」ではありません。
本当の理由は西洋薬と違い、
病名処方や症状処方をすると誤診につながる可能性があり、またネットの情報は全ての人に当てはまらないことも多く、さらに正しくない情報もあるから
です。
※病名処方・症状処方をしても、運良くたまたま合う漢方薬である可能性もあります。
■漢方医は病名処方ではなく証処方をする
漢方の診断で、最も重要なのは患者さんの全体像を診て証というものを見極めることです。
例えば葛根湯の場合、
風邪初期で悪寒(寒気)があり汗をかかず、胃や心臓、睡眠に問題がなく、肩こり頭痛があり、漢方診察で手の脈が浮いて強めに触れる場合が良い適応です。
この場合「葛根湯の証」と診断できるのです。
以上の問診と脈診をしないで葛根湯を処方されたら当てずっぽうの処方となり、誤診処方である可能性もあります。そうなると漢方薬は効かないものだと思われてしまうかもしれません。
実際は、風邪でも葛根湯の証ではなく、違う漢方薬の証だということはよくあります。
葛根湯の証でないと診断したら、当然漢方医が葛根湯を処方することはありません。
西洋薬の場合は、
「この症状にはこの薬」、「この病気にはこの薬」
と決められますが漢方薬の場合はそうではなく、
「この証にはこの漢方薬」として決めるのです。
「証」は複雑で一人一人違うため、実際に漢方診察をしないと分からない
のです。
また、証は変化することもあるため、過去に効いた漢方薬が効かなくなることもあり、この場合は証の再考をします。
前述したように
「ネットに書いてある漢方薬の効果が自分に合っていそう」
と思えても、漢方医が診ると証が違うこともあり、その場合は処方できないのです。
そのため、ネット上の情報などから欲しい漢方薬を指定してそれを強く希望する場合、処方できない可能性もあるので、一般内科で漢方処方してもらえる医療機関を受診した方が良いといえます。
※一般内科でも詳しく漢方診察をする場合があるので、指定した漢方薬がもらえるかどうか、症状や病名などを電話などで伝えて確認してから受診してください。
逆に、「詳しい問診と漢方診察で自分に合いそうな漢方薬を処方してほしい」
という場合は、漢方医への受診をすすめます。
また、自分と同じ症状の知り合いがいたとします。その知り合いは○○の漢方薬で良くなったから同じ漢方薬を処方してほしい、という場合も症状処方になるので一般内科を受診した方が良いです。
他の人と同じ症状なのにその人と同じ漢方薬が効かず、他の漢方薬が効くことはよくあることで、それを同病異治(どうびょういち)といいます。これは症状が同じでも漢方の診断=証が違うからです。
逆に他の人と違う症状なのにその人と同じ漢方薬が効くこともあり、この場合は異病同治(いびょうどうち)といいます。この場合は、症状は違っても漢方診察での証が同じだからです。
つまり、漢方に詳しい医師ほど症状よりも証を重視し、病名や症状だけで処方を決めないのです。
繰り返しますが
初めから「漢方薬〇〇を飲んでみたい」という希望が強い人は、漢方内科外来に受診するのではなく、一般内科で漢方処方してくれる医療機関を選ぶ方が良い
と言えます。
■指定した漢方薬を処方できる場合もある
例外として、次のような場合は指定した漢方薬の処方が可能です。
今まで内服して体に合っていた漢方薬があったとしたら、それは証に合っている漢方薬である可能性が非常に高いので、漢方医からの提案も出した上で処方することはできます。
そのような理由がなく、単に
「○○に効く漢方薬が欲しい」
「○○に特化した漢方薬が欲しい」
「同じ症状の人が○○の漢方薬で良くなったから同じものが欲しい」
の様な言葉は病名処方・症状処方であり、漢方医がとても嫌う言葉なのです。
その理由は何度も言いますが、漢方医は「病名・症状」ではなく「証」を診て処方を決めるからです。