漢方 先補後瀉の法則
初めに、最近手に入れたペン立てです。

白衣の変わったペン立てでしっかりした作りです。

大変気に入っており、診察机に置いています。
本題に入ります。
■自信をもって処方した漢方薬が無効な理由の1つは・・・
難しい症例の場合、1回目の診察で有効な漢方薬を的中できないことはあります。
でも、
自信をもって漢方薬を処方したのに、無効なこともあります。
その理由の1つとして、今回説明する先補後瀉(せんぽこうしゃ)というものがあります。
診断が間違っていなくても、先補後瀉(せんぽこうしゃ)の法則に従えていなかった場合は
処方した漢方薬が効かないこともあるのです。
先補後瀉(せんぽこうしゃ)とは何でしょう?
■先補後瀉(せんぽこうしゃ)とは
漢方では補(ほ)と瀉(しゃ)の治療があり、2つがどういうものなのかは後述します。
漢方の 先補後瀉(せんぽこうしゃ)の法則は、
字の通り
「補(ほ)」を先に治療して
「瀉(しゃ)」は後で治療する
という法則です。
補の治療の前に瀉の治療をする(=先補後瀉の法則に従わない)と、症状が改善しない場合があるのです。
■補(ほ)と瀉(しゃ)
「補」とは不足しているものを補う漢方治療です。
例えばエネルギーが不足して疲れていればエネルギーを補充する、体内の熱が不足して冷えていれば熱を補充する、という治療です。
それに対し
「瀉」とは、外に出すべきものを外に出す(便秘や浮腫みの治療など)、巡らないものを巡らせる(滞った血液や気を巡らせるなど)治療などです。
■補(ほ)と瀉(しゃ)の両方の症状がある場合
どちらの症状もある場合は、
❶補の治療だけする
❷補と瀉の両方を治療する
❸瀉の治療だけする
以上3通りあります。
❷の両方の治療が良いと考える人は多いと思いますが、実際は❶の補の治療だけで瀉の症状まで同時に改善することもあります。その場合、必要なのは補の治療のみで瀉の治療は不要だったということになります。
❸の瀉の治療だけで瀉の症状が改善することもありますが、改善しないこともあるのです。
それは補の治療をしないで瀉の治療をしたから、つまり
「先に補の治療をせず瀉の治療をした=先補後瀉の法則に従わないで治療した」から
ということになります。
■瀉に対する症状がメインだと補を見逃しやすい
患者さんによっては、瀉に対する症状の訴えが強く補に対する訴えが目立たない場合があります。
その場合、補の治療が必要なことを見逃しやすく、
瀉の治療を(先に)して上手くいかないことがあるのです。
補と瀉が両方ある場合は、まず補の治療をするという考え方が先補後瀉です。
■詳しい診察をしてかつ口訣通り矛盾がなくても無効な場合は先補後瀉を考える
前々回のコラムで口訣(くけつ)を説明しました。詳しい診察をして口訣と矛盾がない場合は自信をもって漢方薬を処方できます。
その場合漢方薬が有効なことは多いですが、有効でない場合は補の治療が必要なことを見逃していないかを再診時に確かめる必要があるのです。
■隠れた「冷え」を補うことで改善することがある
比較的多いのが、隠れた「冷え」の存在の見落としです。
冷えがあれば
熱を補う治療=「補」の治療
が必要なケースです。
「冷えていると思い込んでいるけど実際はそれほど冷えていない」
という患者さんは多いです。
でもその逆もあり、
「冷えはあるけどそれほどでもない」
と感じている患者さんが、実はとても冷えていることもあるのです。触診で冷えの存在が明らかならば医師が気づきますが、そうでない場合は気づきにくいのです。
その場合、補の治療(この場合は温める治療)が必要なことを初診時では気づけず、再診時に念入りに診察をして気づき、それから温める治療をすることで改善することがあります。
■先補後瀉(せんぽこうしゃ)・先表後裏(せんぴょうこうり)・先急後緩(せんきゅうこうかん)
今回説明した先補後瀉の他に
先表後裏(せんぴょうこうり)、先急後緩(せんきゅうこうかん)という法則もあります。
この2つの説明は今回省略しますが、
実際は先補後瀉と先急後緩は矛盾することもあり、有効な漢方薬を導くのに迷うことは多々あります。
漢方診療は奥が深く、それを研究して色々発見するのが面白いのです。


