HOME > 医師コラム > 不眠に漢方薬は有効か

不眠に漢方薬は有効か

 

 

 

 

■漢方薬と西洋薬の睡眠治療は異なる

 

 

不眠治療は漢方薬の得意分野とはいえませんが、漢方薬が有効なことはあります。

 

ネット検索すれば睡眠に関する漢方薬が出てくると思いますが、

 

 

漢方薬は西洋の睡眠薬のようにすんなり眠れるようにするものではなく

 

西洋の睡眠薬の代替えにはなりません

 

 

つまり西洋の睡眠薬のようにすんなり眠れる効果を望む場合は期待外れになるので、

その場合は(漢方薬ではなく)西洋薬での睡眠治療をおすすめします。

 

 

漢方薬の場合は

 

 

睡眠と覚醒のリズムを整えるようにすることで眠れる体質に変えていくか、

「※気の異常」の気逆又は気滞を改善させることで眠れるようにしていくことが多いです。

 

※気の異常は以前のコラム「気のせいは漢方で治療できる」参照

 

 

 

 

 

■不眠治療する前に

 

 

人の身体は

エネルギーを使い疲れさせてから睡眠をとり疲れをとる

これを毎日繰り返すことで健康を保ち生きています

 

そのためそのリズムができていない人(特に疲れ方が足りないために眠れていない人)は、そこを改善させても眠れない場合のみ、薬を検討した方が良いです。

 

要するに「動きたくないけど寝たいという人」は、眠れない原因を自分で作っているので生活習慣を変える必要があります。

 

疲れが足りないのに眠りたい場合は西洋薬をおすすめしますが、この場合エネルギーを使わずに薬(西洋薬)で眠ることになるので体の退化(老化)が早くなるでしょう。

 

逆に疲労困憊しているのに眠れない場合は、漢方薬の効果が期待できます。

 

 

 

 

 

■不眠の漢方医学的な原因と代表的な漢方薬

 

 

不眠を漢方の視点から考えると、次の2つが原因になっていることが多いです。

 

❶五臓六腑の肝(かん)心(しん)の不調

❷気血水(きけつすい)の気(き)の不調

 

※気の異常は以前のコラム「気のせいは漢方で治療できる」参照

 

 

❶肝(かん)の不調の代表は抑肝散(よくかんさん) 心(しん)の不調の代表は酸棗仁湯(さんそうにんとう)

 

肝は西洋医学の肝臓と同じものではなく、また心も西洋医学の心臓と全く同じわけではありませんがここではその説明を省略します。

 

 

❶-1肝の不調の場合

 

腹診で左右肋骨の一番下を押して何らかの抵抗などがあれば肝の異常があると判断します。

(※腹診は日本漢方で重視し中医学では重視しない診察法)

 

肝は情緒をコントロールする臓器で、

 

肝が不調だと

→神経が高ぶる→眠れない

 

という状態になります。

 

そのため、高ぶりを抑える漢方薬を使って治療します。

 

その代表的な漢方薬が抑肝散(よくかんさん)抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)です。

 

 

❶-2心の不調の場合

 

心身が疲れれば、たいていの人はぐっすり眠れるでしょう。

 

ところが、五臓六腑の心が不調になると心身が過度に疲れているのにかえって興奮して眠れない状態になることがあります。

 

心を支えているのは肝であり(肝と心は協力し合ってつながっている)、肝の血流を良くさせることで心の不調が改善します。

 

そのため、この場合は肝の血流を良くして不眠を改善させます。

 

肝の血流を良くする成分(生薬)に酸棗仁(さんそうにん)があります。この酸棗仁が主役の漢方薬の

 

酸棗仁湯(さんそうにんとう)が、この場合の不眠に有効になります。

 

酸棗仁を含む漢方薬には、他に帰脾湯(きひとう)加味帰脾湯(かみきひとう)があります。

 

この2つの漢方薬の場合は心の不調以外に脾虚(ひきょ)という状態が根本にある場合に有効です。

脾虚の説明はここでは省きますが、西洋医学的な言い方をすると脾虚は胃腸系の不調の一種です。

 

つまり帰脾湯や加味帰脾湯は、

 

疲れているのに眠れない状態(心の不調)で脾虚も伴っている場合に有効で、

 

これを診断するには詳しい診察が不可欠です。

 

 

一般的に

 

酸棗仁湯は寝つきの悪さに有効なことが多く

 

帰脾湯・加味帰脾湯は中途覚醒に有効なことが多いです。

 

 

酸棗仁湯、帰脾湯、加味帰脾湯のいずれも前述したような状態であるかを医師が詳しく診察してから処方する必要があります。

 

 

もし詳しい診察をせずに医師が処方したら、効能に「不眠」と書いてあるから処方しただけであり、西洋医学的な処方と同じになってしまいます。

 

患者さんも、(不眠に限ったことではないですが)効能に書いてあるから内服してみたいと思うようなことはやめましょう。

 

漢方処方する場合、その漢方薬の性質の細かいところまで当てはまるかどうか診る必要があるということを患者さん側も理解しておく必要があるのです。

 

漢方内科では、症状が1つだけであってもその1つだけを診て漢方薬を決めることはしません。

 

 

 

❷気の不調 気逆と気滞(気うつ)

 

日本漢方で重視する気血水(きけつすい)の考え方で言うと気の異常の中の、気逆(きぎゃく)又は気滞(きたい)が不眠の原因になることは多いです。

 

※気の異常は以前のコラム参照

 

 

気逆になると、神経が高ぶりやすくなりイライラや動悸、上半身の熱感を伴うこともあります。前述した抑肝散や酸棗仁湯も気血水の考え方で言うと気逆になります。

 

気滞になると、気分がふさいだりのどや胸の閉塞感を感じたり動悸がしたり、あれこれ考え込んだりするような症状が出やすくなります。

 

 

気逆気滞が不眠の原因になっている人の場合、その人の全身状態にぴったり合う漢方薬があれば有効である可能性が高まります。

 

気逆気滞による不眠の改善に期待できる漢方薬の説明をしたいところですが、種類が多すぎるので説明しきれません。

 

例えば、

気逆気滞による不眠に効果が期待できそうな

ツムラ漢方薬でざっと思い浮かぶものを番号順に列挙すると下のようにたくさん出てきます。

 

5安中散、8大柴胡湯、9小柴胡湯、10柴胡桂枝湯、11柴胡桂枝乾姜湯、12柴胡加竜骨牡蛎湯、14半夏瀉心湯、15黄連解毒湯、16半夏厚朴湯、24加味逍遥散、26桂枝加竜骨牡蛎湯、35四逆散、54抑肝散、57温清飲、61桃核承気湯、65帰脾湯、67女神散、70香蘇散、72甘麦大棗湯、80柴胡清肝湯、83抑肝散加陳皮半夏、85神秘湯、91竹茹温胆湯、96柴朴湯、103酸棗仁湯、105通導散、106温経湯、111清心蓮子飲、113三黄瀉心湯、116茯苓飲合半夏厚朴湯、133大承気湯、137加味帰脾湯

 

 

効能に不眠と書いていないものも含まれますが、それが実際に不眠に有効だった例もあります。

 

 

厳密にいうと上記以外の漢方薬もありますが、これらの漢方薬は証に合えば(漢方医学的な全身状態に合えば)全て不眠に有効になる可能性があります。

 

 

逆に合うものがなければ漢方での不眠治療は難しいということになります。

 

 

 

 

 

■不眠に限ったことではないが漢方治療の場合は常に全身状態を診る

 

 

前述の全ての漢方薬の特徴や違いをコラムで説明するのには無理があります。

前述の漢方薬の違いが全てわかる医師、全てを使い分けできる医師に診てもらうことが望ましいです。

 

繰り返しますが、効能に不眠と書いてあるから内服してみたいという考え方はしない方が良いです。

 

不眠という部分だけで漢方薬を決めるのではなく、全身状態がどのような状態で不眠なのかを診て漢方薬を処方してくれる医師に処方してもらいましょう。

 

その場合不眠と効能に書いていない漢方薬が不眠に有効になることもあるのです。